天心流の居合刀

天心流兵法に批判的な者達は「同流が使用している模造刀はアルミ刀ではないか」と主張しているようだが、天心流は組居合や組太刀に際して相当激しく刀を打ち合っており、こうした稽古や演武はアルミ刀やジュラルミン刀のような軽量で壊れやすい模造刀では不可能である。

実際、殺陣を行う役者達が「被り」をせずに刃合わせをする際は、模造刀や竹光に掛かる負担を最小限に抑えるために打ち合う寸前で一瞬手を止め、刃同士が触れ合う程度の非常に軽い力で受けや鍔迫り合いを行っているため、派手な動きに比して刀の打ち合い自体に激しい力は掛かっていないのである。

私も芝居の小道具として使われているアルミ刀やジュラルミン刀をいくつか振ったり、実際に組太刀形式で他者と打ち合ったりしてみたが、強く打ち合うと簡単に壊れてしまうばかりか、そもそも激しく振ったり軽く打ち合うだけでも破損してしまうので、役者達がアルミ刀やジュラルミン刀を日頃から慎重に扱う理由がよくわかる。

また、天心流では転柄血振りが多用されるため、刀の接合部から金属音が鳴ることがよくあるが、居合刀は亜鉛合金や真鍮などの比重の重い金属パーツが使用されているため、アルミ刀やジュラルミン刀のような軽い金属パーツが使用されているものと比べて金属音に違いがある。

実際に各流派の転柄血振りを比較すると、天心流が通常使用している大刀は他流派でも使われている居合刀と同じであるとわかる。


天心流・ジュラルミン製の三尺刀
https://www.youtube.com/watch?v=eWmkbzImrFQ



天真正伝香取神道流・居合刀




新陰流判官派・居合刀




天心流・第10世師家の鍬海先生は、各々に合った居合刀を自ら選ぶよう門人達に推奨しているため、使用されている居合刀の重さは門人によって差異があると思われる。

天心流の稽古では曲がった刀身を直したり、動画をスロー再生すると刀身がたわんだりしている様子も見られるが、これはアルミ含有率の多い比較的軽い刀身によく起こることで、正しく抜刀や受けが出来ていても素材の特性上必然的に起こってしまう現象である。

しかしそれ故に、亜鉛含有率の多い刀身よりも弾性率が低いため、折れにくいという特性もある。

弾性率の高い刀同士で打ち合ってすぐ折れてしまうのでは稽古にならないため、弾性率の低い居合刀は組居合や組太刀の稽古が多い天心流に最適と言えるだろう。

一方、天心流ではアルミ含有率の少ない居合刀も使用されており、下記をはじめとした天心流の各動画をスロー再生で見ればわかる通り、抜刀の瞬間も刀身は全くたわんでいない。




TENSHIN-RYU HYOUHO JAPANESE ANCIENT SAMURAI MARTIAL ART | KUWAMI MASAKUMO



アルミ含有率の少ない居合刀は真剣同様あるいはそれ以上の重量があり、弾性率が高く折れやすいため、組居合や組太刀の稽古には適していない。

しかし、上記動画のように1人で形を稽古する分には、むしろアルミ含有率の多い軽い居合刀よりも効果的な鍛錬となるだろう。

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