日本の古武術や空手、中国武術などにおいては、流派(門派)の技術を次代へ継承するための手法として口伝が一般的である。 書物のような形ある状態で情報を記録するのではなく、師から弟子への口伝えのみで教えを継承していくことで、その流派の技術が外部に漏洩し、門外漢が悪用することを防ぐことが出来る。 特に、空手や中国武術では日本の古武術のように伝書を残す習わしが無く、古の時代から現在に至るまで技や形は全て口伝によって継承されることが通例となっている。 例外として、大正時代以降に空手が沖縄から他県に普及した際、摩文仁賢和が日本の武術の風習を取り入れて糸東流空手の目録を発行したこともあったが、他の空手流派ではそうした伝書の類いを正式に発行することはほとんど無い。 日本の古武術界隈では、伝書の無い流派に対して「捏造流派」のレッテルを貼る輩がしばしば現れるが、そもそも日本の古武術においても伝書の発行自体は必ずしも流派の継承を担保するものではなく、むしろ教えは本来口伝によって継承されるものである。 というのも、日本の古武術において「伝書」と呼ばれるものは、大きく分けて「目録」と「口伝書」の二種類が存在するが、目録に関しては流派に伝わる形の名称や歴代継承者の一覧が記載される程度で、技の内容や戦術思想などの具体的な教えが書かれることはあまりない。 しかし、目録は流派が発行する唯一の正式な伝書と言っても過言ではないため、現代武道における段位証明書や允可状のようなものと考えれば決して軽く扱えるものではないだろう。 一方、口伝書とはその名の通り、本来であれば口伝で継承するべき重要な情報を書物などに記載して形ある状態に残したものである。 口伝書は目録とは違い、流派が正式に発行する伝書ではなく、修業者個人が教えを失念しないよう任意に自作する書き付けであり、現代でいえばメモやマニュアルに相当する。 従って、口伝書には技の詳細や具体的な戦術など目録に書かれない内容が記載されているが、前述の通り修業者が個人の意思で自作する私書であるため、必ずしも全ての流派で口伝書が残されている訳ではない。 むしろ、流派や系統によっては口伝書(メモ、書付、備忘録)の製作を禁止している場合もあり、そうした意味では口伝書が残っていること自体が奇跡とも言える。 前述の通り、稽古の内容を記したメモは口伝書となり得るため、もしそれが外