天心流と新陰流の共通技法

天心流兵法(江戸伝天心流)は新陰流から派生した流派であるため、技法や思想に関して共通点が多く存在する。

例えば、「手字種利剣(しゅじしゅりけん)」とは元々新陰流の教えで、相手の気配を察知するためには目付が重要であり、相手の打ち出す太刀筋に対して自分の太刀を十文字に合わせて、相手の攻撃を防ぐことを意味する。

「手字種利剣(しゅじしゅりけん)」は柳生宗矩の「兵法家伝書」にも記載があり、唯一勝つための究極であると述べられている。

天心流の素振りは、新陰流の「輪之太刀」と同様の動きをする。

新陰流における輪之太刀は「魔之太刀」とも通称されるもので、受け流しと切り返しが一体となった刀法である。


新陰流・輪之太刀



駒川改心流やタイ捨流など、新陰流から派生した他流派においても輪之太刀と同様の刀法が基礎鍛錬として伝承されており、天心流と同様に新陰流の術理を技術体系に含んでいる。


駒川改心流
https://www.youtube.com/watch?v=L0nXGIzcZEg


「天心流を含めた新陰流系流派の素振りは、柳生新陰流のそれとは異なる」と主張する者もいるようだが、そもそも天心流を含めた新陰流系流派には複数種の素振りが存在しており、廻剣を伴わない素振りも存在する。


柳生新陰流・雷刀(上段)からの素振り



天心流・袈裟懸けの素振り



しかし、廻剣素振りが新陰流系流派に共通した基礎であることに変わりはなく、天心流を含めた新陰流系の各流派が共通の術理を伝承していることは上記の動画を見れば明白と言える。

天心流の青眼は、黒田藩伝柳生新陰流の青岸や、阿州柳生神影流の青岸と同様の構え方をする。

黒田藩伝柳生新陰流と阿州柳生神影流も天心流と同様に、古伝の江戸柳生新陰流の技法を継承しており、各流派とも腰を低く落とした構え方が特徴である。


黒田藩傳 柳生新陰流 修猷館
https://www.youtube.com/watch?v=LIo3Jq5taoQ


阿州柳生神影流


また、片眼外しの青眼は新陰流の青岸と同じであり、現在の柳生新陰流においても頻繫に見られる構えである。


天心流 片眼外しの青眼
https://www.youtube.com/watch?v=O2acqpNeN4g




天心流が抜刀術を表芸としていることについて、「新陰流から派生した流派なら抜刀術など存在するはずがない」と主張する者達も一部いるようだが、実際には黒田藩伝柳生新陰流や神影流、タイ捨流など、新陰流から派生して抜刀術を表芸としている流派は数多く存在する。


黒田藩傅 柳生新影流 荒津会
https://www.youtube.com/watch?v=Mz0Dpmxyf0A


黒田藩傳 柳生新陰流 修猷館 抜刀勢法



神影流



新陰流判官派も抜刀術を中心とした流派であり、現在は浅山一伝流宗家でもある関展秀先生を中心として継承が続いている。


新陰流判官派・大刀居合
https://www.youtube.com/watch?v=JQo4IERQkac
https://www.youtube.com/watch?v=J7a_xt2-8cY



小刀居合



上記動画内においても「派手で映える技」「殺陣っぽい」と評されており、天心流の技と共通した華やかさがある。

また、新陰流判官派の大刀居合は天心流と同じく転柄血振い(回転血振り)を用いている他、残心時に見られる左掌を柄頭に添えて切先を下げる構えも共通している。


天心流・鐺(小尻)返の残心
https://www.youtube.com/watch?v=Q2n3PYwT4oI



天心流の杖太刀は鞘尻を地面や床につけて刀を立てる所作であるが、新陰流判官派にも「鞘立て残心」と呼ばれる鞘尻を地面や床につけて立てる所作が存在する。


新陰流判官派・鞘立て残心



「鞘尻を地面につけることは、日本の古武術の所作としてあり得ない」と主張する者もいるようだが、上記動画の通り新陰流判官派と天心流には鞘尻を地面につける所作が共通して伝承されており、これは天心流が新陰流分流であることの証明とも言える。

また、天心流と新陰流判官派は、どちらも置き刀を想定した形が多く伝承されている点も共通している。

天心流では抜刀術の稽古法として蠟燭斬りが行われているが、阿州柳生神影流においても同様の稽古法が行われている。


天心流・蠟燭斬り
https://twitter.com/tenshinryu/status/704850684370251776

阿州柳生神影流・炎斬り
https://www.youtube.com/watch?v=gTqWPwUOeIg



新陰流では手の内の親指と人差し指を「龍(辰)の口」と総称するが、天心流においても同様の呼称が使用されていることから、その源流が新陰流にあると認められる。


柳生新陰流・龍(辰)の口
https://eikou-sports.blogspot.com/2014/05/blog-post_22.html

天心流・龍の口
https://www.youtube.com/watch?v=E0bdobCbZ9k



天心流の刀法(剣術の基礎)の1つである「水月の位(老木太刀)」は、新陰流の一刀両段と同様の技であり、実際に柳生新陰流の江戸遣い(江戸柳生新陰流)における一刀両断と見比べると同じ術理を有していることがわかる。

また、天心流の「矩切(かねぎり)」は新陰流の形にも登場する刀法で、柳生新陰流では「くねり打ち」と呼ばれている。

柳生新陰流の抜刀術における大刀の差し方は、天心流と同様に小刀との二本差しを想定し、大刀の鍔で正中線を守るように差すことで抜刀がしやすい工夫を施している。


天心流・水月の位(老木太刀)

天心流・矩切(かねぎり)

柳生新陰流の江戸遣い(江戸柳生新陰流)・一刀両断とくねり打ち、大刀の差し方



天心流の「鳥居返(とりいがえし)」は立相抜刀術と組太刀にそれぞれ形として伝承されているが、柳生新陰流にも同様の技が含まれた組太刀の形が伝承されている。


天心流・鳥居返
https://www.youtube.com/shorts/hPS-c9Slotg


柳生新陰流兵法・梶塚靖司先生と門下生の方々(2019年浅草日本古武道大会)
https://www.youtube.com/watch?v=UC-3Kp7FvKU



天心流の位(構え)の1つである「横笛之太刀」は、新陰流の「執笛勢」と同様の構えである。


天心流・横笛之太刀

柳生新陰流・執笛勢



天心流の「切雲の位」は「雷刀崩」とも呼ばれ、新陰流にも「横雷刀」と呼ばれる同様の構えが伝承されている。


天心流・切雲の位(雷刀崩)
https://twitter.com/kuwamimasakumo/status/1276770919789113345

新陰流・横雷刀


その他、天心流は新陰流と共通する技法について、以下のようにYouTubeやTwitterを通して公開している。


天心流の「雲居」は「雷刀」とも呼ばれる大上段の構えであり、新陰流においても同様の構えを「雷刀」と呼称する。
https://twitter.com/tenshinryu/status/590052957669855233

「無形の位」とは剣を自然に下げた構えのことで、新陰流にも同様の構えがある。
https://www.youtube.com/watch?v=HpjR4t_KXRw

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