武道・武術の形(型)は実戦で使えるのか

「空手の形競技で活躍している選手達は、組手競技で活躍出来ていない」と主張する者達が一部いるが、全空連等が主催する大会で形競技に出場している選手達のほとんどは、そもそも組手競技に出場していない。

しかし、全空連所属選手の例で言うと、オリンピック空手競技・男子形種目の金メダリストである喜友名諒選手は、大学時代に形と組手両種目に出場していたことがあり、組手においてもかなりの実力を発揮している。


大学時代の喜友名選手が出場した組手団体戦



また、喜友名選手は形種目専門の選手となった現在でも組手を練習に取り入れており、形の演武で見られるような柔らかな動きを組手においても実現している。


喜友名選手の組手練習
https://www.youtube.com/watch?v=hK7xgZwLfzA



松濤館流の日本空手協会主催の大会では、椎名勝利先生や栗原一晃先生が現役選手時代に形と組手両種目に同時出場しており、どちらにおいても入賞の常連であった。

また、同じく日本空手協会所属の中達也先生は、現役選手時代こそ組手専門であったが、引退後は形稽古にも力を入れているおかげか、現役時代と変わらぬ動き、あるいはそれ以上に身体的にも戦術的にも良い動きを実現している。


現役選手時代の中先生の組手



中先生は現役を引退されて久しく、年齢を重ねられているにも関わらず衰えが見えないのは、引退後に形稽古によって筋骨を維持し、体の使い方により磨きをかけているからであろう。

少林寺流空手道錬心舘の大会においても、型種目の上位入賞者が組手種目においても優秀な成績を上げる傾向が多い。

伝統派空手やフルコンタクト空手の修業者達の中には、基本と組手の練習のみ行う者も多いが、そもそも基本とは形から抽出した技を一つひとつ練習しているに過ぎず、そうした技を身に付けて組手をしている限りは「形で学んだ動きを組手に生かしている」と言わざるを得ない。

「形に含まれる全ての技を一つひとつ基本として練習していれば、やはり形稽古は不要なのではないか」という主張もあるが、形は一度に多くの技を効率良く練習出来るだけでなく、技同士の組み合わせやそれに伴う正しい体の使い方を習得する目的もあるため、やはり基本練習だけでは学べない重要なことは形稽古で学ぶしかない。

また、組手試合前提の基本練習では習得出来る技に限りがあり、試合で禁止されている技を学ぶことは出来ない。

しかし、形稽古も同時に行うことによって、試合で禁止されている技も学ぶことが出来、これは護身などの試合以外の実戦も考えている者達にとっては有益である。

加えて、組手試合前提の基本練習だけでは、試合同様の小さく隙の少ない動きばかり練習することで、筋骨の衰えや関節の柔軟性低下を招くことになるが、形稽古ではあえてわざとらしいほど大きく動くので、筋骨の鍛練や関節の柔軟性向上、体力錬成にもなる一石三鳥の練習法と言える。

沖縄空手では、伝統派空手やフルコンタクト空手で言うところの基本練習を「補助運動」に含め、型稽古や組手と並行して練習することが多い。

古くから沖縄では、武術家達が型稽古と組手、補助運動をバランス良く練習しており、その伝統が現在でも変わらず続いている。

特に、昔の沖縄空手における型分解は「変手(ヒンディー)」と呼ばれ、単純に決まった技を練習するだけでなく、日本の古流柔術における形の残り合いのように、形と自由組手の中間のような練習をすることが常識であった。

また、昔の沖縄空手には「掛け試し(カキダミシ)」と呼ばれる野試合の風習があったが、現在の沖縄空手でも独自に組手試合を主催する流派や団体は多く、「型・組手・補助運動をバランス良く練習する」という変わらぬ伝統のおかげで、現在の沖縄空手の熟練者達にも実戦で強い者が非常に多く、当然彼らは型にも精通しているため演武も上手い。

古流剣術と撃剣」の記事でも述べた通り、歴代の強豪剣道家達は古流剣術出身者が多く、剣道黎明期に剣道形の制定に携わった者達も、そうした古流剣術出身で形稽古の重要性を理解していた強豪剣道家達だった。

江戸時代から試合稽古が盛んな直心影流や中西派一刀流、北辰一刀流なども、形稽古と試合稽古はバランス良く両立させており、決して試合偏重や形偏重の練習はしない。

格闘技においても、シャドーボクシングや2人一組での技練習などを必ずするが、これらも武道や武術で言うところの形稽古に相当する。

特に、格闘技におけるミット打ちは複数の基本技を組み合わせ、筋骨の鍛練や関節の柔軟性向上、体力錬成、正しい体の使い方の習得なども全て兼ねているため、まさしく本質的には武道や武術における形稽古そのものである。

実際、ムエタイの本場タイのプロ選手達もミット打ちをトレーニングのメインとしている他、日本キックボクシング界の強豪選手である那須川天心選手もミット打ち中心のトレーニングを続けている。

こうした実例を鑑みても、やはり真に実戦で強くなるためには形稽古と試合稽古の両方をバランス良く行う必要があると言える。

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