ナイフ術の間合い

刃物で武装した相手に素手で対抗するにあたり、最も肝心なことは自身の技量の高さである。

より正確に言うと、「技量の高さ」とは単純に技や形の手順を体に覚えさせているかどうかだけではない。

実戦で技を使用する際の「間合い」も重要な要素の1つである。

例えば、ナイフを手にした相手と戦う際は、決してナイフの間合いに居着いてはならない。

ナイフの間合いでは、何よりもナイフを持つ相手の方が圧倒的に有利であり、これは自分が素手であろうとナイフ以外の武器を持っていようと変わらない。

実際、敵にナイフで斬りつけられてしまうケースというのは、全て相手のナイフの間合いに居着いていることが原因で起こっている。


対ナイフ護身術の失敗例




そのため、こうしたケースを根拠として、「巷の対ナイフ護身術はどれも実戦では使えない」と断言してしまう者が多いが、前述の通り自分が相手のナイフの間合いに居着いてしまっては、ナイフを手にした相手に敗北するのは当然である。

そもそも、多くの対ナイフ護身術自体も、相手のナイフの間合いで戦うことは想定していない。

何故なら、対ナイフ護身術において重要なことは、「相手のナイフの間合いに居着かず、自分にとって有利な間合いで戦うこと」だからである。

例えば、対ナイフ護身術として有名なクラヴ・マガやカリ(エスクリマ、アーニス)、シラットなどでは、相手のナイフより内側の間合いに飛び込むことで自らの安全を確保する。


クラヴ・マガ


カリ(エスクリマ、アーニス)









そのため、これらの格闘術や武術では、ナイフを手にした相手の攻撃に対しては可能な限り初動で対応し、相手に組み付くことが出来るぐらいの非常に近い間合いで技を掛ける。

初動で対応しつつ相手の体と接触すれば、相手によるナイフを使った連続攻撃も封じやすく、ナイフより近い間合いに自分が入ってしまえば、相手は満足にナイフを振るうことが難しくなるからである。

実戦においても、素手による対ナイフ護身術が成功するケースは、相手の隙を見てナイフより内側の間合いへ入り、制圧や反撃をしていることがほとんどである。


実戦のナイフ護身術
https://www.youtube.com/watch?v=oPX1iyZ6cwo
https://www.youtube.com/watch?v=83d-16REC40

https://www.youtube.com/watch?v=m6UsP_U6_FQ





咄嗟の対応では相手のナイフより内側の間合いに入ることが出来ない状況もあるが、その場合でも体全体の力を使って、相手がナイフを持っている腕を押し返すように前進する必要がある。

そうすることで、相手の斬撃や刺突の力に対抗し、相手が思うようにナイフを扱えない状況を作ることが出来る。

また、相手のナイフより内側の間合いに入るにあたっては、そもそも相手の攻撃を待つのでは無く、上記の動画のように自らの正中線を守りつつ隙を見てこちらから先手を取るという選択肢もある。

私もかつて包丁を手にした相手を素手で制圧した際は、相手が攻撃する前にこちらから素早く間合いを詰め、お互い負傷することなく包丁を奪い取ることに成功した。

相手の隙を生むためには運やテクニック、戦術も必要となるが、いずれにせよ自分の技量や状況次第では相手のナイフより内側の間合いに入りやすくなるというのが、私個人の経験に基づく結論である。

万が一、相手のナイフの間合いに入ってしまった場合は、自分のパーソナルスペースを腕で守りながら即座に相手のナイフをコントロールし、同じように間合いを詰めて制圧することが重要となるが、こうした技もクラヴ・マガやカリ、シラットなどには存在する。

反対に、相手のナイフよりも遠い間合いで戦うこともまた有効である。

一般的な対ナイフ護身術では、「相手の持つナイフより長い武器を持つ」という対抗手段を教えられることが多いが、これも上記を理由として指導されている。

具体例として、フランスのサバットではステッキ術の「ラ・カン」や蹴りを主体とした「ボクス・フランセーズ」が、伝統的に対ナイフ護身術として指導されている。

現在ではどちらもスポーツ競技として親しまれているが、技術的には昔から変わっておらず、サバットの護身術カリキュラムである「サバット・ディフェンス」においても、ラ・カンやボクス・フランセーズ、組技主体の護身術である「リュット・パリジェンヌ」を技の基本としている。


サバット・ディフェンス
https://www.youtube.com/watch?v=6gmOS07b7UM
https://www.youtube.com/watch?v=CZHohw9BWJ4





サバットのように蹴りを対ナイフ護身術として活用することは非常に有効であり、様々な実戦的状況を想定して護身術の技を競うUltimate Self Defense Championship(アルティメット・セルフ・ディフェンス・チャンピオンシップ)においても、対ナイフ護身術としてのハイキックの有効性が証明されている。


Ultimate Self Defense Championship(USDC)におけるハイキック



蹴りの間合いよりも近距離で戦う場合、パンチも有効な対応手段となり得る。

サバットやクラヴ・マガ、空手の一部流派などにおいても、パンチや突きを用いる対ナイフ護身術の技が組み込まれているが、こうした技の有効性は近年の実戦においても証明されている。


実戦におけるパンチを用いた対ナイフ護身術①

実戦におけるパンチを用いた対ナイフ護身術②


②の動画では、黒人の男が白人の男を組み伏せてナイフを奪った直後、背後から女にナイフで刺されているが軽症で済んでおり、周囲をより警戒していれば無傷で対応出来たであろう。

同じく②の動画の事件では、後に白人の男が黒人の男から拳銃を奪っており、実戦におけるガンディスアームの有効性を証明するケースともなっている。

このように、対ナイフ護身術とは洋の東西を問わず、「相手のナイフより内側の間合いに入る」か、もしくは「相手のナイフより遠い間合いで戦う」ことを大前提としており、そもそも「相手のナイフの間合いに居着くこと」をタブーとしているのである。

この原則は、空手や中国武術、日本の古武術、少林寺拳法などにも見られる対刃物用の護身技においても同様である。


空手
https://www.youtube.com/watch?v=xMmNheIG6mg









ただし、クラヴ・マガやカリ(エスクリマ、アーニス)、シラットなどでは、よりハードな状況を想定して練習するために、あえてナイフの間合いに居着いて繰り返し防御のドリルを行うこともある。

最初は互いにゆっくりと動き、体に技を慣らしながら段々とスピードを上げて防御の練習をすることで、ラッシュのような連続したナイフの斬撃や刺突を捌きながら、隙を見て間合いを詰めながら制圧する手順を覚える。

結局のところ、一朝一夕の練習で簡単に覚えられる護身術など存在しない。

武器を使うにせよ素手で戦うにせよ、日々の練習を何度も積み重ねなければ真に有効な技など習得出来ない。

もし、巷の対ナイフ護身術を実戦で使えないのだとすれば、それは技の問題ではなく当人の修業不足が原因である。

確かに、対ナイフ護身術は実戦での使用が非常に難しく、多くの対ナイフ護身術において第一に取るべき最も有効な選択肢は「ナイフを手にした相手から逃げること」と教えられる。

しかし、状況によっては逃げられないことも多く、生き残ることを諦めて殺されるのをただ待つよりは、対ナイフ護身術を駆使して抵抗する方が、例え成功率は低くとも少しでも生存率を上げることが出来る。

どんな状況であろうと生き残ることを目的として護身術を学んでいるのであれば、低い確率に賭けざるを得ないとしても最後まで諦めないことが最も肝心であり、その点において対ナイフ護身術を学ぶことには大きな意義がある。

もし、実戦で使える有効な対ナイフ護身術を身に付けたいのであれば、技や形の手順を体に覚えさせるだけでなく、相手との間合いにも注目しながらトレーニングしてみると良いだろう。

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