実戦で使える技と「合気を得る」こと

田村装備開発の田村社長は、かつてとある合気道の師範に技を掛けてもらおうと本気で手首を握った際、「そんながむしゃらに握ったら合気は得られない」と言われて困惑されたとのことである。


田村社長と合気道師範の話
https://www.youtube.com/watch?v=_9_qsU3mGbU


確かに、一部の合気道会派では、「相手の手首を強く掴んではならない」と教えられる時があり、気の流れを捉えることを重視してあえて強い力を使わず、柔らかい動きだけで行う稽古法を「流れ稽古」と呼ぶ。

本来、合気道ではまず最初に、強い力でしっかりと手首を掴ませた状態から技を掛ける「固い稽古」を行い、上達するに従って相手が掴もうとしてくる気の流れを読み、掴まれる前に柔らかく技を掛ける「流れ稽古」へと移っていく。

しかし、会派によっては「固い稽古」をせずにいきなり「流れ稽古」をする道場もあるため、そういった修業しかしてこなかった者は強い力で手首を掴まれると技を掛けられないのだという。

また、上述の通り本来は掴まれる前に技を掛けることが理想だが、掴まれてしまったことを想定し、その状況から動くことを練習するための初期段階として、最初の内は力を緩めてもらって具体的な動きが確認しやすいよう配慮し合うことがある。


養神館合気道 精晟会渋谷のブログ
https://www.aikidoshibuya.tokyo/post/aikido-exercise


これは、他の武道・武術・格闘技で言えば、早い動きで練習する前にゆっくりとした動きで丁寧に技を体に覚えさせたり、技の手順を網羅するためにあえて力を緩めて練習することと同様であるため、仮に合気道を実戦で使えるように稽古するとしても必要である。

また、合気道を含めたあらゆる武道・武術・格闘技をやっている者達は、全員がそれを実戦で使うことを想定して練習している訳ではない。

武道や武術、格闘技においても、「勝ち負けや技の上手さに関わらず、単にその武道・武術・格闘技が好きだからやっている」という者は多く、あるいは「その武道や武術、格闘技が持つ独自の文化や精神を学びたい」という理由で練習する者、映画などの創作作品に憧れて練習する者やストレス発散など、皆様々な理由で練習している。

ボクシングやキックボクシングなどの試合競技が確立された格闘技においても、スパーリングや試合出場を一切せずにサンドバッグトレーニングやミット打ち、シャドーボクシングなどしかやらないボクササイズ的なトレーニングを好む者達が多く見られる。

故に、合気道においてもその技を実戦で使うことを想定せず、身体操作と思想の奥深さのみを手っ取り早く楽しみたいが故に、上述の流れ稽古ばかりを好む修業者も多く存在する。

無論、「喧嘩や試合などの実戦で強くなりたい」と考え、護身術としても有効で実戦な技を身につけるために練習する者も多くいるが、やはり武道・武術・格闘技の練習者全員がそうという訳でもない。

そのため、流派や種目を問わず、あらゆる武道・武術・格闘技において、例え教えを乞う相手が指導者だったとしても、「必ずや実戦で使える技を伝授してくれるだろう」などと淡い期待を抱くべきではないし、武道・武術・格闘技をやっている者全員が実戦において強いと思い込むことも大きな誤解である。

武道や武術、格闘技においても、練習者自らがただ漫然と習っているだけでは実戦で戦える実力を身につけることは出来ず、「実戦で強くなりたい」という思いを持ってそれ相応のトレーニングしなければ、真に実戦で有効な技など身につけられない。

そして、実戦で使える技を身に着ける上で大切なことは、習った技に関しても実戦での使用を想定して自ら分析・研究し、体が技を覚えるまで繰り返し練習し、機会があれば乱取り(スパーリング)や試合で技を試すことである。

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