天心流と回転納刀

2020年6月2日、lornplum(@lornplum)先生は天心流兵法(江戸伝天心流)が公開した動画について、「回転納刀は自身が天心流に教えたものであり、解説に誤りがある」と指摘された。


lornplum先生の指摘
https://twitter.com/lornplum/status/1267774636097277952


しかし、天心流が動画内で「回転納刀」と呼んで解説していたものは、元来天心流に伝わっている「廻剣納刀」という納刀法であり、lornplum先生の回転納刀に似てはいるが別物である。

そもそも、天心流が初めて廻剣納刀の動画を公開したのは2016年7月14日のことであり、動画概要欄には以下のような説明が記載されている。


「柳亭風枝師匠が得意とする、刀の回転です。
余技というか遊びの範疇ですが、手の内を作り、手指を鍛えるのに良い稽古法です。
女性の場合は、人差し指と中指の二指で挟むと良いです。」



一方、天心流がlornplum先生から回転納刀を教わったのは2016年11月27日のことであり、天心流が廻剣納刀の動画を公開してから4ヶ月後のことである。


lornplum先生から回転納刀を教わる天心流



「回転納刀」という名称は元々、lornplum 先生が2010年に動画を公開するにあたって作った造語であるが、技法そのものは同先生によるオリジナルではなく、殺陣界隈で古くから広まっていた納刀法である。

例として、1978年公開の映画「雲霧仁左衛門」(英題『Bandits vs. Samurai Squadron』)にも回転納刀が登場している。


仲代達矢主演・「雲霧仁左衛門」の戦闘シーン
https://www.youtube.com/watch?v=kb9iuQ_ez0E



lornplum先生自身も回転納刀が古くから存在していることや、自身が名付けた「回転納刀」という名称が一般に広まっていることについては認識されている。

 
lornplum先生のツイート
https://twitter.com/lornplum/status/1323916914398146561


しかし現在、この「回転納刀」という名称は一般に広がり過ぎてしまい、lornplum先生が名付け親であることを知らない者が多いばかりか、刀や体を回転させて納刀する技法であれば全て「回転納刀」と呼ばれてしまうなど、言葉の意味が極端に広がってしまっている。

実際、YouTubeやツイッターなどで「回転納刀」と検索すると、各々が多種多様な技法を披露していることがわかる。


様々な「回転納刀」の例
https://www.youtube.com/results?search_query=%E5%9B%9E%E8%BB%A2%E7%B4%8D%E5%88%80
https://twitter.com/search?q=%E5%9B%9E%E8%BB%A2%E7%B4%8D%E5%88%80&src=typed_query


故に、天心流も廻剣納刀をより広く一般に発信し、門外漢にも分かりやすく説明するために、最も一般的な表現である「回転納刀」という名称に言い換えてしまったと考えられる。

実際、天心流が2016年7月14日に公開した廻剣納刀の動画タイトルにも、「刀の回転・回転納刀」と書かれており、流派独自の名称である「廻剣納刀」よりも、当時から既に一般化していた「回転納刀」という呼称の方が門外漢にもわかりやすく、動画をより広く発信する意図があったと考えられる。

また、lornplum先生が指摘した天心流の動画内においても、回転納刀によく似た技法に関する天心流独自の正式名称は「廻剣納刀」であると公表されており、以降も天心流はこの名称で同技法を紹介している。


lornplum先生が指摘された天心流の動画

廻剣納刀
https://twitter.com/kuwamimasakumo/status/1320597970199302149


現在、天心流が公開している廻剣納刀は、以下の4種類が存在する。


1. 逆手に柄を握り、刀を回転させる納刀法
2. 人差し指と中指で柄を挟み、逆手で柄を持ち替えながら刀を半回転させる納刀法
3. 順手持ちから刀を回転させ、途中で人差し指と中指で柄を挟みながら、逆手で柄を持ち替える納刀法
4. 順手持ちから刀を回転させ、そのまま刀を納める納刀法  


上記の内、lornplum先生の回転納刀に似ているものは3.の納刀法であるが、前述の通りあくまで天心流に元来伝わっている作法であるため、lornplum先生の回転納刀とは少しやり方が違い、解説が異なることも当然である。

とはいえ、鍬海先生はlornplum先生と旧知の仲であるため、「回転納刀」という名称はlornplum先生が名付け親であると知っていた可能性もある。

その点においては、「廻剣納刀」という天心流独自の名称を一般にもわかりやすく言い換えるためとはいえ、安易に「回転納刀」という名称を使用してしまったことは混乱の元であったと言える。

コメント

このブログの人気の投稿

実戦で手首を掴まれること

天心流と新陰流の共通技法

正拳突きにおける腰の使い方